旅先で映画を見る。

青森のシネマディクトというミニシアターで「ぼくたちの哲学教室」という映画を見た。このシネマディクトというミニシアターが良かった。こういう映画館がある町は良い町に違いないとさえ思う。平日の13時55分の回で、上映最終日ちょい前だったのにそこそこお客さんも入ってた。映画館は3階にあって、2階はクリニックか何かだったのだけど、ビルの地上部分から3階まで階段にはびっしりと独立系の映画のポスターたち。エレベーターで3階に向かうのは野暮に感じる。階段で向かう時は見る映画への期待が高まって、下りる時は観た映画の世界から徐々にヒートダウンしていく効果があって、ホントに良い雰囲気だなーっと。スクリーンは2つで、それぞれルージュとノワールと名付けられていて、こちらの映画はルージュです、という案内をされて、素敵ーっとなりました。

 映画の内容はアイルランドの男子小学校が取り組む、哲学を取り入れた教育についてのドキュメンタリー。校長先生自身が哲学の授業を行い、日々の問題解決にも哲学を取り入れる。喧嘩、万引き、先生に対する暴力、日々問題が起きる。ナレーションは無いので、会話からこういう事が起こったんだな、と理解していく訳だけど、「親に埋葬させるなんて事、あってはダメだ」という車の中の先生同士の会話から、生徒だった子供が亡くなって、そのお葬式の帰りだと理解する。その後、授業で卒業生がドラッグや暴力でたくさん亡くなっていく事を話し、子供たちとキャンドルに火をともして、亡くなった卒業生たちを想って祈る。繰り返し映される町の壁画で、どれだけこの町の若者がドラッグに蝕まれているかはわかるのだけど、お葬式後の校長室で「私にナイフで脅してきた生徒、列席してたな」「小学生にドラッグ売りに来たから、帰れと言ったら、ナイフで殺すって言ってきた子」「覚えてるよ」「あの子は生きて葬式に列席か」いう会話で、事の深刻さが突き刺さる。

 アイルランドだから、ベルファストだから、男の子だから、というところはあると思うけど、暴力や犯罪に対して、早くから何か根本の部分で、思いとどまれる方法を考えての哲学なのかなと感じる。怒りと暴力をつなげない、という事を教えたいんだな、と感じる場面が多かった。テロや紛争は、生徒の親世代がリアルに通ってきて、その上で自分を守る方法を、子供が生まれた時から叩き込む親も少なくないと思う。「やられたらやり返せってお父さんがいつも言うから」友達を殴った生徒から発せられた言葉に、校長先生はまた授業で取り入れる。とにかく対話、生徒に話させる。生徒同士で意見を交わせば、反対意見も出てくる。どっちが正しいじゃない、正しさは一つじゃないから。意見は変わっていい。答えなんか無い。あっても出るまでに時間がかかる。それが哲学。そういう校長先生も、過去に暴力に任せて生きていたようで、どうにか子供達にまっすぐに生きて欲しいと、哲学を取り入れ導いていく。見終わった後は、彼らの未来が良いものになったらいいな、なるんじゃないかな、と希望が持てて、気持ちよく映画館を出ました。

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